エキスパート・コメント

ドローンの国際的規制

1.はじめに

 いまや多くの人々にとってドローンという言葉を耳にしない日はないのではないでしょうか。ドローンはそれほど私たちの日々の生活に身近なものとなってきています。飛行時の音が雄蜂のそれに似ていることからその名称が定着したともいわれるドローン(drone)ですが、諸説あるその名の由来はさておき、従来は無人航空機(UAV: Unmanned Aerial Vehicle)や遠隔操縦機(RPV: Remotely Piloted Vehicle)として専門家たちの間で知られていました(今でもそう呼ぶ方が適切であると考える専門家も多くいます)。
 ドローン技術の進歩によって、今後の私たちの生活の利便性は飛躍的に向上するといわれています。実際、ドローンは、高い機動力・性能とコストパフォーマンスに優れた機種の登場によってすでにその片鱗を見せており、たとえば空から深海に至る地球上のありとあらゆる難所での撮影を相当程度可能なものとするなど(火山活動映像はこちら)、観光、映画・映像、学術などの各種業界に貢献していることは広く知られています。今後もさらに物流や農業、建築・土木・測量、警備、救急医療・災害救助、環境保護、不発弾処理などの幅広い分野で活躍することが期待されていることから、ドローン技術の市場価値は一層高まっていくことでしょう。国際民間航空機関(ICAO)でも、国際民間航空条約の無操縦者航空機(第8条)に関する手続を定めた附属議定書を改正し、国内規制のための模範事例の提供とあわせて、将来ドローンが有人機と同一空域で運航できるようにするための環境作りに向けた取り組みがなされています(例えばこちら [Chapter 3.2.3])。
 このようにドローンは私たちの生活を豊かにしうる反面、使い方次第で私たちの生活を脅かす側面も持っています。とりわけ2014年にフランスの原子力発電所上空に正体不明のドローンが相次いで飛来した事件や、その翌年に放射性物質を含有する土砂を入れた容器と発煙筒を載せたドローンが日本の首相官邸の屋上に落下した事件は、ドローンによるテロの危険性を改めて私たちに認識させるものでした。こうした事件をきっかけに、日本でも飛行方法と飛行区域の観点からドローンに対して国内的規制がかけられるに至っています(航空法第132条および第132条の2、ならびに小型無人機等飛行禁止法を参照)。
 しかし最も恐ろしいのは、ドローンが戦争の道具として使用されることでしょう。高度な殺傷能力を持つ装備がドローンに搭載されれば、それはたちまち兵器へと変貌します。今やドローンは、有人の車両や船舶、航空機と同様に、兵器システムにおける運搬体(プラットフォーム)になりえるほどの進化を遂げました。英国や米国、イスラエルなどの外国軍隊は、ドローンの持つそうした可能性にいち早く目を付けていました。もっとも、当初彼らが採用していたのは、せいぜい射撃訓練の際の標的となる無線操縦機(ターゲット・ドローン)に留まっていましたが、長距離遠隔操縦を可能にする衛星を介した誘導通信技術とドローン自体の運動性能・航続距離が実戦レベルにまで向上するやいなや、状況は一変します。各国は1990年代から次第に有人航空機では困難な飛行区域をも天候に左右されることなく高高度で長時間飛行できる無人偵察機(「RQ-4グローバル・ホーク」など)を実戦投入するようになりました。さらにヘリ搭載型空対地ミサイル「ヘルファイア」とそれを攻撃目標に誘導するレーザー照準器を搭載した無人攻撃機「MQ-1プレデター」が9.11以降のグローバルなテロとの戦いの主役に躍り出たことで、世界はドローン戦争時代とともに21世紀の幕開けを迎えたといっても過言ではありません。現在もなお、これを改良した「MQ-9リーパー」をはじめとする武装ドローンの後継機種が続々と登場するなど、その急速な進化は、「いずれ戦争はロボットだけで行われるものになるのではないか」と人々に予感させるほどです。
 武装ドローンを所有する国は年々増え、今や英国や米国、イスラエルだけでなく、パキスタン、イラク、ナイジェリア、イラン、トルコまでもがすでに国内外でこれを使用するに至っています。それに伴い犠牲者の数もまた、国際社会が無視できないほどにまで深刻な問題となっていきました。国際社会がドローンの規制について本格的に乗り出したのも、こうした問題を抱える武装ドローンの台頭が背景にあります。

2.国際法の規制枠組み

(1)不透明な各国の武装ドローン政策

 実のところ、ドローン自体を直接禁止する国際法はありません。上述のように、ドローンは私たちの生活を豊かにしうる良い側面もあるため、それ自体を名指しで禁止することが難しいからです。それだけに、ドローンにどのような規制が国際的に存在するのかについては、既存の国際法規則に照らして慎重に考える必要があります。
 武装ドローンに潜む国際法上の問題については、その登場以来、専門家たちの間で幾度となく議論が交わされてきましたが、国際社会がこの問題について公に懸念を表明し始めたのは、2010年に差し掛かる頃であったといえます。国連の司法外、即決または恣意的処刑に関する特別報告者による2010年の報告書(アルストン報告書)において、米国の中央情報局(CIA)が、アル・カイーダやタリバンとの戦いで意図的なまたは計画的な個人の殺害を行ういわゆる「標的殺害(targeted killings)」の手段として武装ドローンを用いていることの合法性が問題とされたからです。その後も国際社会は、武装ドローン自体が禁止される兵器でなく武力紛争被害を軽減する可能性を持つことを認めつつも、その攻撃が適用可能なすべての国際法規則に合致していることを、ことある毎に実行国に透明性をもって対外的に説明するよう求めています(国連のヘインズ報告書エマーソン報告書、赤十字国際委員会(ICRC)の声明など)。
 では、その武装ドローンによる攻撃に適用可能な国際法規則とは一体何なのでしょうか。紙面の制約上、ここでは主なものだけを取り上げてみることにします。

(2)国際人権法

 武装ドローンによる攻撃について最も重要な国際法規則は、国際人権法上の生命に対する権利です。そこでは個人の生命は国によって恣意的に奪われてはならないことが定められています(たとえば自由権規約第6条1項)。
 戦場から遠く離れた地上誘導ステーションで操縦桿やコントロール・スティックを操る者たちがコンソールのモニター越しに武装ドローンで目標を攻撃する様は、さながら日常生活でコンピュータのシューティングゲームを楽しんでいるように見えなくもありません。実際、こうした武装ドローンによる攻撃は、人の命を奪うことに対する攻撃側の心理的なためらいの感覚を戦場で戦うよりも麻痺させる可能性があると指摘されることがあります(プレイステーション現象)。もしそうであるなら、ゲーム感覚で標的となった人の命は、攻撃国によって軽んじられ、まさに恣意的に奪われたということにならないのでしょうか。
 恣意性というのは非常に難しい言葉です。明確な法上の定義も与えられていません。しかし、国際人権法上、少なくとも恣意的な生命の剥奪に当たらない、つまり生命に対する権利の侵害には当たらないものとしていくつかの例外が認められています。武装ドローンとの関連でいえば次の2つの場合が問題とされてきました。
 1つは平時における例外、すなわち、急迫した脅威から自分または他人の生命を守るためには、意図的に相手の生命を奪うより他に選択肢はないという個人の自衛の場合です。この場合、@急迫した生命の脅威が存在すること(急迫性)、A相手の命を奪うより他にその脅威を排除する手段が存在しないこと(必要性)、B必要以上の実力行使でないこと――つまりやり過ぎではないこと――(比例性)といった諸条件がすべて満たされなければなりません。武装ドローンは、相手を捕まえる能力などを持たない殺傷能力に特化した兵器であるため、これら諸条件の充足についてはとくに慎重な説明が求められます。

(3)国際人道法(武力紛争法)

 もう1つは武力紛争時における例外、すなわち、国際人道法(武力紛争法)に従って生命が奪われる場合です。欧州人権条約も「合法的な戦闘行為から生ずる死亡の場合」(第15条2項)は国による違法な生命の剥奪に当たらないとしてこれを認めています。
 国際人道法に従ってドローン攻撃を正当化するには、なによりもまず武力紛争が発生していなければなりません。とくに国がアル・カイーダやISILのような非国家武装集団を相手とする場合、武力紛争が発生していると認められるには、高い烈度の暴力行為が当事者間で長期にわたり継続していなければなりません。しかし、武装ドローンの攻撃だけではそのような高い烈度の武力紛争が発生したみることは難しいでしょう。なぜなら、無人機ゆえに攻撃側の人的被害が想定されないことはもちろん、目標への正確な攻撃によって巻き添え被害も最小限に抑えることができる精密戦(surgical warfare)こそが武装ドローンによる攻撃の強みだからです。ただし、1つ1つの攻撃は烈度が低くても、世界各地で同じ国が同じ武装組織に繰り返し行う複数のドローン攻撃を集積させれば、全体として高い烈度の暴力行為が単一の武力紛争として発生していることになると主張する見解もないわけではありません。いずれにせよ、この例外に即して武装ドローンによる攻撃を正当化しようとするなら、すでに武力紛争が発生していることをまずもって証明することが必要になります。
 武力紛争が存在するということになれば、紛争当事者はそこに適用される国際人道法に従って行動することが求められます。国際人道法上、武装ドローンによる攻撃が適法と認められるには、@軍事目標に向けられたものであること(区別原則)、A禁止される兵器――つまり無差別兵器、過度の傷害・無用の苦痛を与える兵器、または自然環境に広範・長期的・深刻な影響を与える兵器――を搭載しておこなわれたものでないこと、B非軍事目標への巻き添え被害(付随的損害)が攻撃によって得られる軍事的利益との比較において過度でないこと(比例性原則)、C以上を確実なものとするためにあらゆる実行可能な予防措置がとられること(予防原則)といった諸条件がすべて満たされなければなりません。いずれも重要な条件ですが、ここでは武装ドローンの文脈で特に問題になると思われる次の3点について補足しておきたいと思います。
 第1に、武装ドローンによる攻撃の犠牲者に一般の民間人が多いことがメディアの注目を集めていますが、国際法上認められる軍事目標は兵士だけではありません。一般の民間人でも戦いに参加している(専門的には「敵対行為に直接参加している」)とみなされれば、ドローン攻撃の適法な目標になりえます(詳しくは、赤十字国際委員会の解釈指針[拙訳])。したがって、民間人へのドローン攻撃=違法な攻撃とは限らないことには注意が必要です。しかし、この点で深刻なのは、むしろ殺害された者が――兵士であれ民間人であれ――本当に軍事目標であったのか、あるいはそもそも誰が殺害されたのかを証明する公式記録を攻撃国が十分に示していないという点です。この問題は、映画『ドローン・オブ・ウォー』(原題:Good Kill)や『ドローン 無人爆撃機』(原題:Drones)の中でも、攻撃に関する記録の中止や上官の攻撃命令に抵抗するシーンとして描かれています。
 第2に、国には、「新たな兵器」について、それが禁止されるものでないかどうかを審査する義務があります(ジュネーヴ第1追加議定書第36条)。武装ドローンが新技術によるものとして注目を集めている以上、使用に先立ち、各国はこの兵器審査義務を果たさなければなりません。
 第3に、武装ドローンのような先端科学技術を攻撃の手段として用いることのできる国には、ドローン攻撃の際、その技術を最大限駆使して、他の手段で攻撃する場合よりも巻き添え被害を最小限に抑える努力(比例性原則と予防原則)が一層求められうるということです。米国(少なくともオバマ政権)は非国家武装集団との武力紛争でも攻撃の際の比例性原則と予防原則を重視しています。実際、米軍は、軍事目標への攻撃の際の事前警告のためにその近傍にある建物の屋根の部分に正確な攻撃をするというイスラエル軍の戦術「ノック・オン・ザ・ルーフ(knock-on-the-roof)」が有効であるとして、その採用を今年になって公式に認めています(米国国防総省の報道会見はこちら)。また、先に触れた映画『ドローン・オブ・ウォー』では武装ドローンを操縦する主人公の後方に損害評価要員と思しき者も登場しますが、そこには米国のドローン攻撃では実行可能な最先端の予防措置が講じられているというメッセージが込められているのかもしれません。
 以上の国際人道法規則にすべて一致しない限り、武装ドローンによる攻撃は、生命に対する権利の中で例外として認められる「合法的な戦闘行為」にはなりません。武力紛争時の武装ドローンによる国際人道法違反の攻撃は、同時に国際人権法違反(生命に対する権利の侵害)の攻撃にもなるということを私たちは十分に認識しておかなければなりません。

(4)武力行使法

 さらに、各国が武装ドローンによる攻撃を国内ではなく国外にある目標に対して行う場合には、それが武力の行使と評価される限り(*)、これを規律する国際法(武力行使法)にも合致しなければなりません。この場合、武力行使法は、武装ドローンによる国外にある目標への攻撃が、領域国または旗国(船舶・航空機の登録国)の同意を得て行われるか、あるいは国連憲章で定められた諸条件を満たす国の自衛(第51条)や国連の強制措置(第7章)として行われるかのいずれかを求めています。
 以上が武装ドローンに適用可能な国際法の主な規制枠組みですが、今後これに新たに加わるかもしれない展開についても最後に以下で簡単に触れておきたいと思います。

3.新たな国際的規制の試み

(1)自律型致死兵器システム(LAWS)

 近年では、人工知能(AI)の発展に伴い、人間による制御を離れた(human out of the loop/human-free)ロボット兵器に潜む暴走の危険性もまた、とりわけサイバー攻撃に対する脆弱性の問題と相まって懸念されるようになりました。ドローンもロボット端末である以上、これと無関係ではありません。人間を介さない完全な自律兵器は現時点では存在しないといわれていますが、各国は今なお兵器の自律性向上を積極的に推進しています(自律性能の高い兵器としては、すでにイスラエルの防空システム「アイアンドーム」などが有名です)。そうである以上、将来における完全自律兵器の可能性を排除することはできず、武装ドローンでいえば、英国の最新鋭無人戦闘機「タラニス」がこの問題の将来を占うものとして専門家たちの注目を集めています(製造業者は人間による制御を強調しています)。
 こうして人権NGOを中心に「殺人ロボット阻止キャンペーン」が実施される中、各国もこれに応える形でロボット兵器を「自律型致死兵器システム(LAWS: Lethal Autonomous Weapons Systems)」の問題と位置づけ、特定通常兵器禁止制限条約(CCW: Convention on Certain Conventional Weapons)の枠組みの中で、LAWSの定義や上述の兵器審査を含めどのような規制が可能であるかについて検討を始めました(日本の取り組みについてはこちら)。CCW自体は原則として武力紛争時を対象としているため(もっとも、平時への適用を認める国もないわけではありません)、今後そこで新たな条約枠組みができたとしても、それが平時における警察・法執行活動や国際平和協力活動のために使用される場合の規制には及ばない可能性もありますが、注目すべき武装ドローン規制の展開であるといえます。

(2)拡散防止・輸出管理

 さらに2016年10月5日、米国や日本を含む52カ国が「武装または攻撃可能無人航空機(UAVs)の輸出および事後の使用に関する共同宣言」を発表しました。武装ドローンは国によって用いられるだけでなく、非国家のテロリストたちにも使用可能な兵器であることはいうまでもありません。彼らが非対称戦(asymmetric warfare)で活用する自爆ドローン(suicide drones)の問題は、そこに搭載されうる大量破壊兵器の拡散と相まって国の安全を脅かす深刻なものと認識されています。そこで彼らの手に武装ドローンが渡るのを阻止すべく、米国の主導で今回の共同宣言に至ったわけです。そこでは、上述した国際人道法と国際人権法を含む既存の国際法の適用が確認された上で(A項)、武装ドローンの輸出が「既存の多国間輸出管理および不拡散レジームの諸原則」(C項)と一致することが各国に求められています。これを確保するための透明性のある措置については自発性が強調されているなど(D項)、これらがどこまで法的基準として成熟しているのかについては慎重な検討が必要となります。しかし、武装ドローンの輸出管理を規制する重要な国際基準を構築するための取り組みとして、LAWS規制とともに今後の重要なポイントとなることは間違いありません。

4.おわりに

 これまでみてきたように、ドローンそれ自体を禁止する国際法は存在しません。ドローンはあくまで何かしらの装備を搭載するための運搬体にすぎず、使い方次第で私たちの生活を脅かすものにも豊かにするものにもなる、価値中立的な存在だからです。相手を殺傷する能力を持つ武装ドローンでさえ、関係する国際法に合致した使い方をする限り、武力紛争被害を軽減する可能性を持つ兵器として、違法なものとはされていません。問題は、そのような使い方がなされているかどうかにあります。とりわけ、相手の命を奪うようなドローンの使い方は国際社会で最も懸念されている点です。
 人間の生命に対する権利は国際人権法で最も重要な規則の1つです。平時では自分や他人の生命を守る個人の自衛の場合、武力紛争時では国際人道法に従って戦闘を行う場合などがこの規則の例外として認められていますが、これらの例外に当てはまらなければ、生命に対する権利の侵害として国際法違反となります。また、これらの例外に該当することによって生命に対する権利の侵害(国際人権法違反)にならないとしても、国外で武装ドローンを使用すれば、別の国際法(武力行使法)の違反になる可能性もあります。
 ドローンは新技術というイメージが強いため、国際法の規制が追いついていないのではないかという印象を持たれることもありますが、少なくとも国に関する限り、このように既存の国際法の枠組みは武装ドローン規制に対処可能なものとしてはっきりしています。むしろ国際社会がより問題としているのは、こうした国際法に従ってドローンを使用していることを、各国が透明性をもって十分に説明していないことにあります。LAWSや輸出管理といった観点から新たな規制も模索されていますが、そこでもやはり透明性確保に重点が置かれていることは、この問題の深刻さを表しているといえるでしょう。
 対照的に、テロリストなどの非国家主体によるドローンの使用規制という点で、国際的規制が不十分であることは否めません。ドローンの問題に限らず、武力紛争の当事者にならない限り、彼らの行為は主として所在する国の規制に委ねられています。国を超えた国際的規制の難しさがこの問題でも顕著に表れており、国際社会の挑戦は今なお続いています。

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